プリンキピア・マテマティカ

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『プリンキピア・マテマティカ』(Principia Mathematica:数学原理)は、アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドとバートランド・ラッセルによって書かれ、1910年から1913年に出版された、数学の基礎に関する3巻の仕事である。それは、記号論理学において、明示された公理の一組と推論規則から数学的真理すべてを得る試みである。『プリンキピア』のための主なインスピレーションと動機の1つは論理学に関するフレーゲの初期の仕事で、それがパラドックスをもたらすことをラッセルが発見したのである。

プリンキピアでは、精巧なタイプ・システム(階型理論)を造ることによって、それが避けられた:要素の集合は、要素それ自身のタイプとは異なるタイプからなる(集合は要素ではない:1つの要素は集合ではない)、「すべての集合の集合」や同様の構造を語ることはできない、それはパラドックスをもたらす(ラッセルのパラドックスを参照)。

プリンキピアは、数学論理と哲学においてアリストテレスの『オルガノン』以来もっとも重要で独創的な仕事の一つと、広く専門家に考えられている。

モダン・ライブラリーは、この本を20世紀のノンフィクション書籍上位100のリスト(Modern Library 100 Best Nonfiction)の23位に位置づけた[1]。

 

築かれた基礎の範囲

プリンキピアは、集合論、基数、序数および実数だけをカバーした。実数解析からのより深い定理は含まれていなかったが、知られていた数学の多数が、適用された形式主義で原理的には展開できることが、第3巻の終りまでに専門家に明確になった。そのような展開がどんなに長くなるかもまた明確になった。幾何学の基礎に関する第4巻が計画されていたが、第3巻が完成したとき、著者たちは知的に枯渇したことを認めた。


無矛盾性と完全性

残った疑問は
1.プリンキピアの公理から矛盾が導かれるかどうか(無矛盾性の問題)
2.証明も反証もされない数学の言明が体系内に存在するかどうか(完全性の問題)

であった。命題論理自体は無矛盾で完全であると知られていたが、同じことはプリンキピアの集合論の公理に関しては確立されていなかった。(ヒルベルトの第2問題を参照)

ゲーデル不完全性定理は、これら2つの関連する問題に予期せぬ光を投げかけた。

ゲーデルの第1不完全性定理は、プリンキピアが無矛盾かつ完全であることはできないことを示した。定理によれば、プリンキピアのような、十分に強力な論理体系には、それぞれ本質的に「言明Gは証明不可能である」と読める言明Gが存在する。このような言明は、キャッチ22とよばれる種類であり、Gが証明可能であればそれは偽で、したがって体系は矛盾しており、Gが証明不可能であればそれは真で、したがって体系は不完全である。

ゲーデルの第2不完全性定理は、基本算術を展開するどんな形式体系も、それを使って自己の無矛盾性を証明することはできない、と言う。

したがって、「プリンキピアの体系は無矛盾である」という言明は、体系内に矛盾がある(この場合、それが真かつ偽と証明されうる)のでない限り、プリンキピアの体系内で証明することはできない。

 

批判

ウィトゲンシュタインは、(たとえば、数学の基礎に関する1939年ケンブリッジでの講義で)さまざまな論拠でプリンキピアを批判した。たとえば、
それは算術のための基本的な基礎を明らかにすることを意味する。しかし、それは基本的な数えることのような、我々の日々の算術練習である。数えることとプリンキピアの間に不一致が繰り返し起これば、それは日々の数えることの誤りの証拠としてではなく、プリンキピアにおける誤りの証拠として扱われるだろう(たとえば、プリンキピアは数や足し算を正しく特徴づけなかったと)。
プリンキピアの計算方法は、実際には非常に小さい数について使えるだけである。大きい数(たとえば10億)を用いて計算するには、この公式はあまりに長くなり、いくつかの近道の方法を使わねばならないだろうが、その方法は疑いなく、数えることのような日々の技術に(または帰納法のような基本的でない―したがって疑わしい―方法に)依るだろう。したがって再び、プリンキピアは日々の技術に依っているのであり、逆ではない。

ただし、ウィトゲンシュタインはプリンキピアがそれにもかかわらず、日々の算術のある面をより明確にするかもしれないと認めた。


注釈
1.^ Modern Library[1]
2.^ The Notation in Principia Mathematica[2]


関連項目
公理的集合論 
概念記法
ブール代数
Information Processing Language

 

参考文献

原著
Whitehead, Alfred North, and Bertrand Russell. Principia Mathematica, 3 vols, Cambridge University Press, 1910, 1912, and 1913. Second edition, 1925 (Vol. 1), 1927 (Vols 2, 3). Abridged as Principia Mathematica to *56, Cambridge University Press, 1962.
Alfred North Whitehead; Bertrand Russell (February 2009). Principia Mathematica. Volume One. Merchant Books. ISBN 978-1603861823.
Alfred North Whitehead; Bertrand Russell (February 2009). Principia Mathematica. Volume Two. Merchant Books. ISBN 978-1603861830.
Alfred North Whitehead; Bertrand Russell (February 2009). Principia Mathematica. Volume Three. Merchant Books. ISBN 978-1603861847.

2次文献
Grattan-Guinness, Ivor (January 2001). The Search for Mathematical Roots, 1870-1940: Logics, Set Theories, and the Foundations of Mathematics from Cantor Through Russell to Gödel. Princeton University Press. ISBN 069105858X.

邦訳
『プリンキピア・マテマティカ序論』 岡本賢吾・戸田山和久・加地大介訳、哲学書房〈叢書思考の生成 1〉、1988年7月。ISBN 4-88679-023-2。 - 1910年発行の初版第1巻から、「はじめに preface」と「第一版への序論 Introduction」を翻訳したもの。

外部リンク
スタンフォード哲学百科事典: Principia Mathematica -- by A. D. Irvine.
The Notation in Principia Mathematica -- by Bernard Linsky.

Principia Mathematica online (University of Michigan Historical Math Collection): Volume I
Volume II
Volume III

Proposition *54.43 in a more modern notation (Metamath)

 

「プリンキピア・マテマティカ」の書誌情報