性的奴隷
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世界人権会議や国連人権委員会の報告書で強姦、強制売春、人身売買などと併せて人道に対する罪であると度々告発されている。
定義
1979年、ペンシルバニア州立大学の社会学教授キャサリン・バリーが著書『Female Sexual Slavery (女性奴隷)』を出版した[4]。バリー教授は性的奴隷撲滅運動の教祖となった[1]。
バリーによれば、性的奴隷とは、娼婦だけでなく結婚した女性でも夫から性暴力(ドメスティックバイオレンス)を受けたり、父親から性的虐待を受けた娘なども含まれ[3]、バリーは「女性が想定を越えて男性の性的用途に使われた場合、奴隷制の状態にある」として、奴隷制とは、売春、結婚、家庭における女性や児童への男性からの暴力の一面のことを指すと主張している[3][1]。
歴史
19世紀後半から20世紀にかけてアメリカ合衆国ではホワイトスレイブリとして強制売春が問題になり[1]、1910年にはWhite-Slave Traffic Act (マン法)が成立した。
- 1926年、奴隷条約(Slavery Convention)が国際連盟において発効され、奴隷状態の最初の包括的な定義が明記された[5]。
- 1930年の強制労働条約では強制労働が禁止され、日本は1932年に批准した[6]。
- 1956年に国際連合が採択した奴隷制度廃止補足条約では女子が拒否できない婚姻、奴隷制を禁止した。
- 1957年の国際労働機関による強制労働廃止条約でも強制労働が禁止された[7]が、2005年、厚生労働省は日本の公務員制度の根幹にかかわるため批准は困難と発表している[8]。
各国の状況
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国では現在も性的人身売買が問題となっており、特に移民の女性が売春に従事することがあることから、女性移民は潜在的に性的奴隷であるとする意見もある[1]。
右派系フェミニズム組織の the Coalition Against Trafficking in Women (CATW)などは、売春婦はギャングによるレイプとしている[1]。このCATWは2000年人身売買被害者保護法(Victims of Trafficking and Violence Protection Act of 2000)や国連のProtocol to Prevent, Suppress and Punish Trafficking in Persons (2001)の草案に関わり、2004年には、人身売買や性的奴隷の撲滅運動は過激化した[1]。
2004年1月25日のニューヨーク・タイムズ・マガジンの表紙には「Sex Slaves on Main Street: The Girls Next Door」が掲載された[1]。
日本
1990年代以降の韓国や日本における一部市民運動により、日本軍が設置した慰安婦制度では、慰安婦に対して自由の制限と強制売春による甚だしい人権侵害があったと主張され、「性的奴隷」という表現が用いられた[9]。
1992年以降、日本弁護士連合会(日弁連)がNGOと共に国連において慰安婦問題を性奴隷としてあつかうよう活動し、1993年の世界人権会議のウィーン宣言及び行動計画において性的奴隷制という用語が国連で採用されて、国連では慰安婦問題を性奴隷の問題として扱うようになった[2]。1993年以降は「性的奴隷」が日本軍慰安婦制度を指すことはNGOや諸国政府の共通理解となったと日本弁護士連合会は述べている[2]。
1995年2月に日弁連は、国連女性の地位委員会、第4回世界女性会議(北京会議)で「従軍慰安婦」問題解決を提言し、戦時における性的奴隷制 (Sexual Slavery) の被害者などに対する補償を含む原則が明言された[2]。
1996年に国連人権委員会特別報告書のクマラスワミ報告付属文書1「戦時における軍事的性奴隷制問題に関する朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国および日本への訪問調査に基づく報告書」では、第二次世界大戦中に旧日本軍が実施した慰安婦制度は明確に奴隷制であると主張された[10]。ただし、「単に朝鮮半島の出身者だけでなくすべての元慰安婦のケースにも適用されるべきである」と付記されている[10]。
1998年の国連人権委員会差別防止・少数者保護小委員会で歓迎されたマクドゥーガル報告「武力紛争下の組織的強姦・性奴隷制および奴隷制類似慣行に関する最終報告書」附属文書では、「第二次大戦中に日本軍がアジア全域で女性を奴隷化した」ことが非難された[11]。
マクドゥーガルによれば、奴隷制は1944年には日本を含めてすべての国が禁止していたが、日本は慰安所、慰安婦という性的奴隷制度を維持し、また、1863年のリーバー条約では戦時中のレイプや虐待が、第4ジュネーヴ条約第27条では女性の名誉に対する攻撃(とりわけレイプと強制売春)が禁止されており、日本が慰安婦を設置した時点で国際法では禁止されていた、と主張した[11]。さらに、普遍的裁判権の原則によって、奴隷制、人道に対する罪、戦争犯罪は、他の国の裁判所でも審理可能であるとした[11]。
2014年11月、読売新聞英語版は日本軍の慰安婦を「Sex slaves」と表記することは不適切であり、そのように表記してきたことを謝罪した[12]。
北朝鮮
北朝鮮では強制売春がなされていると報告されている。2015年現在、国連人権委員会では問題にされていない。
韓国
朝鮮戦争、ベトナム戦争の際に韓国軍慰安婦が存在し、また在韓米軍慰安婦問題などもある。2015年現在、国連人権委員会では問題にされていない。
カンボジア
ヨーロッパ
イタリア、チェコ、ボスニア、バルカン半島などでもホワイト・スレイブ・トレード(人身売買)が問題になった[1]。
ドイツ
ナチスドイツでも慰安所が設置されたが、強制収容所にも設置された。2015年現在、国連人権委員会では問題にされていない。
脚注
- ^ a b c d e f g h i j k Anti-Immigrant, Anti-Woman, Anti-Sex:U.S./UN Crusade Against "Sex Trafficking"Women and Revolution pages of Spartacist English edition No. 58,Spring 2004
- ^ a b c d 従軍慰安婦問題への政府の対応に関する声明 1995年11月16日
- ^ a b c Kathleen Barry,The Prostitution of Sexuality (New York: New York University Press, 1995)
- ^ Kathleen Barry,Female Sexual Slavery (New York: Prentice-Hall)1979
- ^ 『戦時・性暴力をどう裁くか 国連マクドゥーガル報告全訳〈増補新装2000年版〉』凱風社,2000年[要ページ番号]
- ^ 1930年の強制労働条約(第29号)国際労働機関駐日事務所2014/03/21
- ^ 1957年の強制労働の廃止に関する条約(ILO条約第105号) 国際労働機関駐日事務所2014/03/21
- ^ 強制労働の廃止に関する条約厚生労働省、2005年
- ^ 吉見義明「従軍慰安婦」岩波新書、1995年[要ページ番号]
- ^ a b クマラスワミ報告付属文書1「戦時における軍の性奴隷制度問題に関して、朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国及び日本への訪問調査に基づく報告書」アジア女性基金
- ^ a b c マクドゥーガル報告「武力紛争下の組織的強姦・性奴隷制および奴隷制類似慣行に関する最終報告書(日本語)」アジア女性基金
- ^ Japan paper Yomiuri Shimbun retracts 'sex slaves' references,BBC,28 November 2014
参考文献
- 土屋公献「従軍慰安婦問題への政府の対応に関する声明」日弁連、1995年11月16日
- クマラスワミ報告付属文書1「戦時における軍の性奴隷制度問題に関して、朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国及び日本への訪問調査に基づく報告書」アジア女性基金
- マクドゥーガル報告「武力紛争下の組織的強姦・性奴隷制および奴隷制類似慣行に関する最終報告書(日本語)」アジア女性基金
- 吉見義明「従軍慰安婦」岩波新書、1995年
- Kathleen Barry,Female Sexual Slavery (New York: Prentice-Hall)1979
- Kathleen Barry,The Prostitution of Sexuality (New York: New York University Press, 1995)
- Anti-Immigrant, Anti-Woman, Anti-Sex:U.S./UN Crusade Against "Sex Trafficking"Women and Revolution pages of Spartacist English edition No. 58,Spring 2004
関連項目
「性的奴隷」の書誌情報
- 項目名: 性的奴隷
- 著作者: ウィキペディアの執筆者
- 発行所: ウィキペディア日本語版
- 更新日時: 2015年5月31日 07:23 (UTC)
- 取得日時: 2015年6月6日 16:18 (UTC)
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